【お悩み】ヒーローより悪役に共感……。私は悪の人間なのでしょうか?
2026.07.06
人生の悲喜こもごもが街の空気に溶け込む街、西成の一角に今宵も灯る小さなネオン……。
ここはドヤの止まり木「オアシスきみこ」、改め「ファースト・グラス」。ママ・きみこからスナックを受け継いだキョーサクこと社長・視野狭窄に、日々のモヤモヤを抱えたスタッフが匿名で会いにやってきます。
はてさて、今宵はどんな人がどんな悩みを抱えてやってくるのでしょうか?
箱番・キョーサクによる相談コーナーのはじまりはじまり。
お久しぶりです~。あれ、きみこママは?
ママ、旅に出ちゃってね。僕がこのスナックを受け継いだんです。
どうりでお店の雰囲気が変わったはずだ。『メタルギア』のフィギュアが飾られているし、BGMに『ラヴ・イズ・オーヴァー』が流れているし……。
ママから好きに使っていいと言ってもらったので、自分の城にしようと思って。
キョーサクさんの趣味全開って感じですけど、なんか居心地いいです(笑)。
でも、もうママにお悩み相談できないのか……。
いや、僕がいるじゃないですか!
ほら、悩みがあるなら言ってごらんなさいよ。
急に偽ママ出ましたね(笑)。じゃあ、聞いてもらえますか。
実は僕、なぜかいつもヒーローより悪役に惹かれるんです。それで、自分はダークサイドの人間なんじゃないかと落ち込んでしまうことがあって……。
なるほどね~。悪役って、たとえばどんなの?
やっぱり一番好きなのは、『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーですね。
僕もリアルタイムでエピソード4から6を映画館で見た世代だから、『スター・ウォーズ』にはハマったなあ。でも、ダース・ベイダーを推すのはどうして?
ダース・ベイダーってもともと銀河の平和を守るために戦っていたのに、「愛する者を守りたい」と強く思うがあまり失うことが怖くなり、銀河皇帝パルパティーンの甘言に負けてダークサイドに堕ちてしまうんですよね。
愛を失うことを恐れ、執着したとき、人は暴走してしまう……。悲劇的なストーリーですよね。
ダース・ベイダーには、強さだけじゃなく恐怖心や誘惑に負けてしまう弱さもあって、そこに共感するんです。
そっか。ダース米ダーさんが悪役に惹かれるのは、清廉潔白なヒーローよりも悪役に人間味を感じるからじゃないのかな?
うーん、そうかもしれません。
あと、悪役はきれいごと抜きな分、目指している世界も現実性が高いから共感できるのかも。ゲームとかでも、ラスボスが提案してくる取引って合理的じゃないですか。
ラスボスの提案……?
たとえば『ドラゴンクエスト』では、初代ラスボスの竜王が血眼になって乗り込んできた勇者に、「もし、わしの味方になれば、世界の半分をお前にやろう」と提案するんです。
それ、なんかワナっぽくないですか……?
あれは、無駄に戦って犠牲を出さないための交渉なんですよ。「お前も正義の看板背負ってしんどいだろう。こっちも魔王をやるのは骨が折れる。ここらでシェアして、あとは各々好きなように暮らそうじゃないか」と……。大人の知性ある振る舞いだと僕は思うんですよね。
そういう考え方もあるのか~。
うん。それなのに勇者は、対話のテーブルを蹴り飛ばして有無を言わさず剣を振り下ろす。
お決まりの展開ですね。
勇者はいったい、何を守っているんだろうね?
……世間一般の「正しさ」とかでしょうか。
そう。結局、勇者が守っているのは多数決で決まった現状維持のシステムに過ぎないんですよ。それって息苦しくないですか?
たしかに。だから僕はいつも悪役の思想に共感するのかも。
ダース米ダーさんは、ヒーローたちの「正義」が薄っぺらで、この世界のルールがデタラメであることに気づいてしまっただけなんですよ。
僕、世界の秘密を知っているのか~。なんか、かっこいいかも。
だから、僕はまともな世界で退屈なお茶をすするくらいなら、ドラクエの竜王からもらった「世界の半分」の領地で美味いビールでも飲んでいたいと思うけどなあ。
いいなあ。固定観念を覆す、新しい世界ができそうですね。
うん。凝り固まった正義でつくられた世界じゃなくても、いいじゃないですか。
なんか、自分がダークサイドの人間なんかじゃないと思えて安心しました。
世間の言う正義なんかに振り回されず、悪役みたいに人間臭く、でも合理性を持って、堂々と生きていけばいいんじゃないですか。
はい!周りからどう思われようと、恐れることなく悪役推しでいきます!
恐れはダークサイドに通じる。恐れは怒りに、怒りは憎しみに、憎しみは苦痛へ。
ではこのまともな世界でのご健闘を祈ります。フォースとともにあらんことを。

PROFILE

箱番・キョーサク
「オアシスきみこ」に通う常連客のひとりだったが、ママが旅に出たため、スナックを受け継ぎ切り盛りするように。
昼間は西成のとある企業の社長。
カラオケの十八番はビートたけしの「嘲笑」。
Text by オオカワユキ
Illustration by トミタリサ

